季節の草花や、清らかな水辺。折々の自然や風物を描き出した繊細な上生菓子は、ショーケースの中から四季の移ろいをそっと教えてくれるよう。思わず見入ってしまう風趣に富んだ上生菓子や、半世紀以上愛される銘菓「白鷺宝(はくろほう)」でお馴染みの<菓匠花見>。清楚な美しさと心和む味わいに満ちた和菓子は、どのように生み出されているのでしょうか。そのルーツには、浦和の豊かな自然と、一人の名職人の存在がありました。
<菓匠花見>は大正元年、浦和の地に誕生。浦和は江戸時代から中山道の宿場町として栄え、大正から昭和にかけては首都圏に近い住宅地として多くの文化人が移り住み、“鎌倉文士と浦和画家”という言葉が生まれるほどの文化都市として発展しました。<菓匠花見>本店はJR浦和駅西口を出てすぐ目の前にあり、日本橋三越本店、銀座三越の店舗で販売される和菓子も、すべて本店の工房で職人たちが毎日手作りしています。
<菓匠花見>を代表する商品と言えば「白鷺宝」。丁寧に炊いた白餡に卵の黄身を加えて焼きあげ、ミルクでコーティングしたお菓子です。
上品な佇まいと、口の中でやさしくほどけるなめらかな黄身餡が魅力の「白鷺宝」は、1962年に誕生。2代目店主が白鷺の卵をイメージして作りあげました。本店近くの野田地区は鷺の名所であり、江戸時代には紀州徳川家が御囲鷺(おかこいさぎ)として保護し、数十万羽が生息していたと言われています。“野田のサギ山”は1984年まで国の特別天然記念物にも指定されていました。<菓匠花見>2代目は、野田の清らかな水辺にたたずむ麗しい鷺の姿に魅入られ、また来年もこの地で会えるようにとの想いを込めこの「白鷺宝」を発案したそう。
この「白鷺宝」はバリエーションの豊富さも特徴のひとつ。定番で全6種類のフレーバーがあるほか、年間15から20種類の季節限定品も展開しています(写真は2020年三越のお中元カタログ掲載の限定商品)。他にも、イチゴやスイカの形を模したり、サンタやトナカイを象ったり、ユニークなデザインは店頭でもひときわ目を引きます。「お客さまを驚かせたい、楽しんでいただきたい」という職人たちの心意気と、「和菓子をもっと身近に、気軽に感じて欲しい」という願いで作っているのだそう。
そしてもうひとつの名物が、芸術的な上生菓子の数々。こちらもバリエーションが豊富で、年間およそ100から120もの種類が登場します。
繊細な細工を施す上生菓子は、作るのに高い技術を擁するため、職人の中でも仕上げをまかされるのはわずか3名のみ。その中で、デザインの立案、味の設計など創作の根本を担っているのが、名職人として知られる小菅弘さんです。
小菅さんは、全国和菓子協会が優れた技術を持つ職人を認定する「選・和菓子職」制度が始まった第一回に優秀和菓子職部門に選出された認定者の一人。全国菓子博覧会でも優秀工芸賞や名誉総裁賞を受賞した実績を持つ名職人です。今回、菓子作りへのこだわりについて、ミツコシデイズからの質問に答えてくださいました。
―デザインする際に大切にしていることは何ですか?
上生菓子という限られたキャンバスの中で、季節感やモチーフとしている実際の物、風景の特徴を見極め、一目見ただけで感じていただけるようにデザインをしています。和菓子は引き算の美学と言われ、いかに際立った特徴を残し無駄な部分をそぎ落とすかが大切です。
―伝統的なモチーフがある一方、クリスマスやハロウィンなどの現代行事や三越の食品フロアが取り組むテーマを基にした、ポップなデザインも多く手がけていらっしゃいますね。
三越伊勢丹のバイヤーの方からさまざまなテーマをいただいた時には、今までに考えもしなかった新しい型の上生菓子を数多くお作りしてきました。モチーフの幅を広げたことにより、お客さまの幅が広がったことも事実です。和菓子は伝統文化であると同時に、その時代に合わせた形に変化をしなくてはいけません。一昔前までは上生菓子といえば茶席でしかお召し上がりいただく機会がなかったものが、最近では食事の後に召し上がっていただいていることをお客さまにお伺いしてモチーフの幅を今の時代に合わせることを決めました。
―日本橋三越本店は2003年から、銀座三越では2020年2月から店舗を構えていらっしゃいますが、それぞれどんな印象がありますか。
日本橋三越本店は弊社の店舗の中でも上生菓子の販売数が最も多く、沢山のお客さまにご利用をいただいております。上生菓子から弊社のことを知っていただけることが多い店舗でもあります。銀座三越店は日本人のお客さまのほかに、海外のお客さまが多くご来店いただいており、日本の伝統文化である和菓子の発信をさせていただけるよう販売を行っております。
伝統的な和菓子を継承しながら、今の時代ならではの遊び心ある和菓子作りにも積極的に取り組んでいる小菅さん。周囲の方に伺うと、「お客さまの要望に添ったものをなんでも作ってしまうところがすごい。どんな難題でも初めから断らず、希望に添えるか考えて挑戦している」との言葉が。高い技術があるからこそ、アイディアやイメージを形にすることができ、和菓子の文化を新しい時代につないでいくことができるのだとわかります
これから<菓匠花見>に出会うお客さまへのメッセージとして「見るだけで心が躍るような、ワクワクしていただける商品。驚くような楽しい商品を沢山お作りしていきますので、ぜひ一度ご来店ください」とコメントしてくれた小菅さん。新たな和菓子の魅力を広げる<菓匠花見>のクリエイションに、これからも注目です。
代表銘菓「白鷺宝」。飽きのこないおいしさで、お子さまからご年配の方まで幅広く愛される味わいです。約1週間日持ちし、冷凍保存もできるので、贈りものや手土産にも人気のアイテム。
98円(1個)
SHOP INFO
■日本橋三越本店 本館地下1階/柱番号A-5
■銀座三越 本館地下2階/和菓子
季節ごとに登場する白鷺宝の期間限定フレーバー。5月〜9月は「あんず」です。あまずっぱくフルーティなあんずの風味が、まろやかな餡の甘みとマッチ。夏にふさわしい爽やかな味わいです。
130円(1個)
SHOP INFO
■日本橋三越本店 本館地下1階/柱番号A-5
■銀座三越 本館地下2階/和菓子
[販売期間]白鷺宝 ともに通年販売
あんず ともに2020年9月30日(水)まで
「見て心が躍るようなデザインと、食べたときに美味しいと感じていただけることを両立している」という小菅さん。季節の上生菓子5点についてそれぞれ解説していただきました。
(左下から、時計回りに)
・「紫陽花」:白い部分は黄身餡の雪平(求肥に卵白を加えたもの)。2種類の異なる色の錦玉で紫陽花の花の濃淡を表現しました。
・「釣天狗」:鮎釣りに使用する魚籠をイメージした練り切り製の上生菓子。籠のくぼみを忠実に再現しました。籠紐も一本一本巻きつけています。
・「清流」:透明な錦玉は川の水をイメージし、川底にある小石を練りきりで表現しました。鮎をかたどった羊羹が浮いているように見せるため、一度錦玉を流して羊羹を置き再度、錦玉を流しています。
・「つゆ草」:きんとん製で中の餡は粒餡です。朝露を錦玉で表現して、朝に咲く花の瑞々しさを表現しています。
・「撫子」:撫子の特徴であるの尖った花びらを全体で表すのではなく、花びらの一部と余白を使用することにより全体像を表現しました。
各346円(1個)
SHOP INFO
■日本橋三越本店 本館地下1階/柱番号A-5
■銀座三越 本館地下2階/和菓子
[販売期間]ともに2020年6月30日(火)まで
※写真の上生菓子は2020年6月30日(火)までとなります。
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※価格はすべて税込です。
※記事掲載日時点での商品情報のため、お取り扱いのない場合がございます。また、商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。
※品切れの際はご容赦ください。
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