季節の干菓子
  • SPECIAL
  • 2019.12.26 UP

連載[老舗今昔 #006]典雅にして風味絶佳。悠久の時と金沢の文化を菓子に刻む<森八>

直線と曲線のリズム、精緻な凹凸が生み出す陰影、ほろりと口の中でほどける優雅な甘み。打ち菓子は、木型職人と菓子職人の技が結晶した食の芸術です。古都・金沢で400年近い歴史を刻む<森八>の代名詞は、日本三名菓のひとつである落雁(らくがん)「長生殿」。また四季折々の風物を写し取った季節の干菓子や、金沢のひな祭りに欠かせない金花糖など、伝統的な和菓子を幅広く取り揃えていますが、それを支えるのは江戸時代から続く膨大な木型のアーカイブ。近年は商品だけではなく、木型そのものの美しさや歴史も知ってもらおうと、金沢の本店に木型美術館を開設し、訪れる人々にその文化を発信しているそう。[老舗今昔]第6回は、加賀を代表する菓子舗<森八>の歴史と、和菓子を支える“木型”の世界をのぞいてみましょう。

三越デイズ

創業394年。金沢の茶の湯文化を支える老舗

金沢の<森八>本店

<森八>の始まりは、寛永2年(1625年)。藩命により加賀藩御用菓子司としての歴史をスタートさせました(当時の屋号は<森下屋>。明治以降に<森八>に改名)。加賀藩は藩祖・前田利家が千利休に学び、三代藩主・利常も文化奨励策を敷き名だたる茶人たちを藩へ招いたほどの文化都市。武士だけでなく職人や町人にいたるまで茶の作法を身につけていたそうで、茶の湯に欠かせない菓子文化も発展しました。そんな歴史の流れの中で誕生したのが、<森八>の代表作「長生殿(ちょうせいでん)」です。

“日本三名菓の随一”。小堀遠州が命名・揮毫した「長生殿」

長生殿

「長生殿」は、森八家三代目八左衛門が藩主・利常の命を受けて作りあげた落雁(らくがん)。利家が豊臣秀吉に献上した打ち菓子を原型に、利常の創意で書道の墨のような形にアレンジ。それを加賀藩に招聘されていた小堀遠州(遠州流茶道の始祖)が「長生殿」と命名し揮毫。その篆書体(てんしょたい)の文字を木型で浮かび上がらせたというゆかしき一品です。四国産の和三盆糖に家伝の精粉(せいこ)を合わせ、天然の本紅で染め分けた落雁は、優美にして美味。時の後水尾天皇や歴代の徳川将軍家にも献上され、“日本三名菓の随一”と謳われました。なんと誕生から三百数十年たった今も変わらぬ製法で作られており、江戸時代の天下人たちに愛された味わいを今も楽しむことができます。

菓子作りを支える木型の魅力

この「長生殿」を作る木型は、長いもので100年以上使われているというから驚きます。山桜の木で作られており、木目が大変細かく固いため、長期にわたって使用できるのだそう。<森八>では、江戸時代から大切に保管されてきた木型が1000丁以上あり、四季折々の菓子づくりに今でも現役の道具として使用されています。

現在も使われている木型

加賀の木型は“持ち手”がついており、木型へしっかりと材料を打ち込むことができ、細やかな造詣を表現できるのが特徴。金沢にはかつて多くの木型職人が存在していました。一説には鋳物の盛んだった隣県の富山県・高岡に多く住んでいた仏師たちが金沢へ移住し、木型職人になっていったと言われています。

加賀の木型

しかし現在では市内に木型職人はおらず、全国でも数名しか存在しないため、木型は大変貴重なもの。近年では工芸品として蒐集しインテリアにする方も増えているのだとか。たしかに、その繊細な細工は眺めるだけでも引き込まれる魅力があります。

金沢菓子木型美術館

上の写真は、2011年に金沢の<森八>本店2階に開館した「金沢菓子木型美術館」。江戸時代から現代に続く木型のアーカイブ、千数百点の展示は壮観。金沢を訪れる人々に、和菓子の歴史と文化を発信しています。数百年前の人々も同じ型で作った菓子を食べていた、と思うと、不思議でもあり、愛おしくもあり。小さな木型に悠久の時が刻み込まれているかのよう。職人の数はわずかでも、絶えずにこの素晴らしい技術が未来へ受け継がれていって欲しいと願いたくなります。

 

三越デイズ
  • 1
  • / 2 items
  • (
  • 伝統の打ち菓子
  • )
長生殿

甘みの品、口どけの妙、色彩の冴え。めでたき名菓

「長生殿」とは、中国の玄宗皇帝と楊貴妃が七夕の夜に永遠の愛を誓い合った宮殿の名前。その由来や紅白の彩りから、結婚式や敬老の日など、お祝い事の席に用いられることが多いそう。ピンクの色味は本紅、色合いの品と冴えが違います。一口噛むとクキッと軽く割れ、北陸産のもち米粉の香ばしい風味と和三盆糖の優雅な甘さが広がります。こちらのスタンダードなタイプの他に、食べやすい小ぶりなサイズや、打ち立てを密封し独特の食感を楽しめる生〆タイプなどのバリエーションもございます。

  • 日本橋本店

<森八>長生殿

2,160円(1箱/8枚入)

  

SHOP INFO

■日本橋三越本店 本館地下1階 / 柱番号A-5

  • 2
  • / 3 items
  • (
  • 伝統の打ち菓子
  • )
季節の干菓子詰合せ

松竹梅に鶴亀。縁起モチーフそろい踏み

今回、日本橋三越本店で特別に販売される「季節の干菓子」は、お正月にぴったりの縁起モチーフ。上段の鶴、亀は片栗製、下段の松竹梅は落雁です。下段右から3番目は唐松の若芽を意匠化した文様。家族や親族が集まるお正月、みんなで健康や長寿を祝いながら召しあがれば、心にのこるひとときが過ごせそうです。

  • 日本橋本店

<森八>季節の干菓子詰合せ

1,296円(1箱/鶴・亀×各1個、唐松×2個、竹×4個、梅×2個、金平糖 13g)

  

SHOP INFO

■日本橋三越本店 本館地下1階 / 柱番号A-5

[販売期間]2019年12月1日(日)〜2020年1月5日(日)

  • 2
  • / 2 items
  • (
  • 新世紀の新作
  • )
季すずやか

金沢が誇る素材の魅力が詰まった、21世紀の夏の定番

4世紀近い歴史を誇る<森八>が、21世紀になって新たに誕生させた人気商品をご紹介。こちらの「季(とき)すずやか」は、加賀の誇る素材、宝達葛と能登大納言を使用し、新しい時代の夏の定番を目指して開発された涼菓。小豆餡や抹茶餡をコシが強くなめらかな宝達葛で葛饅頭に仕立て、能登大納言の甘納豆を散らした宝達葛ゼリーに閉じ込めました。その涼しげな風情や素材の良さを生かした味わいがたちまち人気に。夏季限定商品なので、ぜひ今年の夏をお楽しみに。

  • 日本橋本店

<森八>季すずやか

2,160円(1箱/6個入)

  

SHOP INFO

■日本橋三越本店 本館地下1階 / 柱番号A-5

[販売期間]夏季限定

三越デイズ

FLOOR GUIDE

ONLINE STORE

※価格はすべて税込です。

※記事掲載日時点での商品情報のため、お取り扱いのない場合がございます。また、商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。 

※品切れの際はご容赦ください。

SHARE

関連記事

連載[老舗今昔 #011]清楚な美しさと、心和む味わい。浦和から手作りの味を届ける<菓匠花見>
SPECIAL

連載[老舗今昔 #011]清楚な美しさと、心和む味わい。浦和から手作りの味を届ける<菓匠花見>

繊細な上生菓子や、半世紀以上愛される銘菓「白鷺宝(はくろほう)」でお馴染みの<菓匠花見>。清楚な美しさと心和む味わいに満ちた和菓子は、どのように生み出されるているのでしょうか。そのルーツには、浦和の豊かな自然と、一人の名職人の存在がありました。    

連載[老舗今昔 #010]始まりは北欧の小さな町、ヨックモック
SPECIAL

連載[老舗今昔 #010]始まりは北欧の小さな町、ヨックモック

スウェーデンのストックホルムから北へ800kmあまり。静かな森と湖に囲まれた小さな町JOKKMOKK(ヨックモック)にはまごころあふれる手づくりのおいしいおもてなしがあります。それが<ヨックモック>の創業者・藤縄則一氏との運命の出会いとなったのです。    

[銀座4丁目物語]いい肉、挽き立て。今夜“銀ハン”はいかが?
SPECIAL

[銀座4丁目物語]いい肉、挽き立て。今夜“銀ハン”はいかが?

精肉や鮮魚の専門店が軒を連ねる銀座三越の地下3階は、さながら“銀座4丁目の商店街”。そして商店街といえば名物がつきもの。知る人ぞ知る名物をご紹介する新シリーズ[銀座4丁目物語]。トップバッターは“銀ハン”の愛称を持つ人気者、その名も「銀座4丁目ハンバーグ」です。