店内風景
  • SPECIAL
  • 2019.10.4 UP

連載[老舗今昔#004]深く澄んだ一杯を、丁寧な仕事で生み出す<宮越屋珈琲>

じっくり焼き上げた深煎りの豆を、オーダーごとにお客さまの好みに合わせて挽き、一杯ずつじっくりネルドリップで落とす。「特別なテクニックはありません。ただ、手を抜かず、丁寧に。お客さまのご要望を聞いて、応える。それだけです」。そう語るのは、創業者の宮越陽一社長。日本橋三越本店新館4階にある<宮越屋珈琲>は、2004年のオープン以降、とびきりのコーヒーと居心地の良い空間でファンを増やし続けています。札幌に本拠を置く<宮越屋珈琲>が、なぜ日本橋に?宮越社長に、三越との関わりや、40年以上におよぶコーヒー人生について語っていただきました。

三越デイズ

ゆったりした時間が流れる、大人の隠れ家的喫茶店

宮越屋コーヒー入口
窓から見える風景

大きな窓から日本橋を一望できる店内は、大理石の柱や磨き込まれたテーブルをほのかな照明が照らし、時間までゆったりと流れているかのよう。都心の喧騒をひととき忘れ、読書にふける人や、友人やご夫婦で和やかに語らう人々の姿が目立ちます。コーヒーの快い香りに満ちた店内で、さっそく<宮越屋珈琲>のルーツに迫ってみましょう。

— そもそも、コーヒー専門店をはじめられたきっかけは?

私は札幌出身なのですが、10代の頃、上京してたまたまアルバイトに入った喫茶店が、原宿の<カフェ・アンセーニュダングル>という、1970年代のコーヒー専門店ブームを牽引したお店でした。そこで林義国さんという素晴らしいマスターに出会い、コーヒーの世界に魅了されていったんです。当時は、外国に上級の豆が独占されてしまい、日本には低品質な豆しか入ってこなかった時代。だからこそ日本では、限られた素材から味のよいコーヒーを作るため、焙煎、エイジング、ブレンド、ハンドピック、抽出方法などの技術が独自の進化を遂げていった。その頃の東京には、コーヒー文化の礎を築いた“達人”とも言える方々が大勢存在していました。林さんもそのお一人です。

宮越社長

コーヒー人生の始まりに、日本でもトップクラスの方に技術や心構えを直接教えていただけたのは、本当に幸運なことでした。その後数年間東京で働き、27歳の頃札幌に<カフェ・アンセーニュダングル>が開店した時に店長を務めました。その後独立し、1991年に<宮越屋珈琲>として本格的に自家焙煎豆の販売もスタートしました。

“濁りのない、お吸い物のような”コーヒー

— <宮越屋珈琲>は、自家焙煎とネルドリップが特徴ですが、どのようなこだわりあるか教えてください

焙煎は、よい品質の豆を選び、豆に合った適切な焼き加減で焼いてあげるのがポイント。うちの基本は深煎りですが、“焦がさずに深く焼く”というのがテーマです。焦がさないように、豆の中まで深く火を入れるには、とにかく丁寧に、均等に、時間をかけて焼いていくこと。どこか短縮しようと手を抜くと、表面が焦げて嫌な苦みや雑味がでてしまいます。

豆のショーケース

最近は浅煎りで酸味が立ったコーヒーが流行ですが、深く焼いても豆本来の持つ酸味は感じられます。苦み、酸味と並ぶもう一つの要素が“コク”。コクのもととは“渋み”です。豆の焼き方やコーヒーの淹れ方が適切だと、渋みが嫌なシブさではなくコクに変化するんですね。

ハンドドリップ風景
ネルドリップの様子

コーヒーは特注のネルドリッパーで熟練のスタッフが一杯ずつハンドドリップでお淹れします。目指すのは、“濁りのないお吸い物のような”コーヒー。澄んでいながら、旨みやコクをしっかり感じられる。それは和食文化にも通じる、日本人の舌にあった味わいだと考えています。

お客さまのことを考え、丁寧に心を尽くす

店内のインテリア

— 札幌から日本橋に出店することになった経緯とは?

札幌で<宮越屋珈琲>を立ち上げて数年後、1996年に札幌三越に出店のお誘いをいただきました。伝統があり、東京の風を感じられる場所でもある三越は、憧れの百貨店。東京に住んでいた頃もよく三越に足を運んでいました。お客さまひとりひとりに丁寧に向き合う、その姿勢も自分たちの目指すものと同じと感じていたので、出店は嬉しかったですね。そして2004年に日本橋三越本店の新館オープンのタイミングにこちらに店舗をかまえることになりました。

こだわりのカップ
アンティークのスプーン
雰囲気のある照明

— 店内の雰囲気が好き、というお客さまの声も多く聞かれます

東京への初出店、そして日本橋三越本店という場所にふさわしい店構えを考え、内装もこだわりました。例えば、テーブルや椅子は松本民芸家具のものですが、よい物は長く使えますし、時間がたっても味わいや風格が滲み出てくる。お客さまの目に触れ、手に触れるものを吟味して、さりげなく上質な空間を整えるのも、おもてなしの一環と考えています。

宮越社長

— たくさんこだわりがあるのに、その主張を感じさせないさりげなさが、<宮越屋珈琲>の雰囲気を作っているような気がします

言葉で語らずとも伝わるように努力することが大切だと思っています。コーヒーも、“誰にでもおいしく、能書きは少なく”というのがモットーです(笑)。ありがたいことに徐々にお客さまも増え、2007年には新館地下2階にテイクアウトのスタンドもオープンしました。

— これからの目標を教えてください

ずっと変わらずいつも同じ、と思っていただくためには、実は少しずつ変化や進化をし続けないといけない。すばらしい先輩方から教わったものを、自分なりに磨きあげて、次の世代に繋げていきたいと思っています。

三越デイズ
  • (
  • 三越の名を冠した一杯
  • )
三越ブレンド

<宮越屋珈琲>三越ブレンド

ブラジルをベースに、焙煎をわずかに深めにした「三越ブレンド」。三越のある日本橋や銀座という街から、古き良き時代ブラジルコーヒーでコーヒーを覚えた紳士淑女をイメージしたそう。ブラジルは技術がないと扱いが難しいといわれる豆でもあり、通人たちにふさわしい一杯。宮越社長曰く「ストレートでもさらりと飲めるが、ミルクや砂糖をいれてもコシが抜けない」のが特徴。コーヒーはすべて豆の挽き加減を、粗挽き、ストレート、デミタス(細挽き)から選べます。

1,100円(1人前)

  

SHOP INFO

■日本橋三越本店 新館4階/<宮越屋珈琲>

三越デイズ

FLOOR GUIDE

ONLINE STORE

※価格はすべて税込みです。
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