有限会社今野醸造のみなさん
  • SPECIAL
  • 2019.9.17 UP

人と時間が生み出す、本物のおいしさ。大豆も米も蔵人が育てる仙台味噌

「普段は小売りしていない、とてもいい味噌が入荷するんです。蔵元さんが大豆もお米も自分たちで作っているんですよ!」。グローサリー担当バイヤーの熱のこもった説明を聞いて、生産現場を訪ねてみたくなったミツコシデイズ編集部。7月某日、宮城県へと取材に出かけました。そこで出会ったのは、自分たちが追い求める理想の味を実現するため、厳しい自然に向き合い、手間も時間も惜しまず、納得いく味噌造りに精を出す、優しい笑顔の蔵人のみなさんでした。

三越デイズ

視界いっぱいの水田と畑。雄大な奥羽山脈をのぞむ日本有数の穀倉地帯・宮城県大崎地方

今回、日本橋三越本店の<あぶまた味噌>に入荷するというその味噌の蔵元は、宮城県加美郡加美町にある<有限会社 今野(こんの)醸造>。仙台市から車で約1時間ほどの加美町に到着すると、視界に飛び込んできたのは、見わたす限りの青々とした水田と畑。ここ大崎地方は、日本有数の穀倉地帯。「ササニシキ」や「ひとめぼれ」発祥の地としても知られます。

一面の水田
一面の大豆畑
今野浩嗣さん

今野醸造の営業企画課課長・今野浩嗣さんが、自社農場を案内してくれました。
「わが家はもともと江戸時代から続く農家。明治36年に、当主・宇喜治が今野味噌醸造元を立ち上げ、今にいたります。創業当時、味噌は自宅で作るのが当たり前だったので、最初は売れずに苦労したようです」。

宮城県特別認証栽培で育てる、米と大豆

生き物のすむ美しい環境
今野醸造の水田

今野醸造の水田です。「町内でも、粘土質で米栽培に向いた土質のエリアで米を作っています。糀にするのに適した品種を、農薬や化学肥料の使用を低減した宮城県特別栽培認証で育てています」。

今野醸造の大豆畑

続いて大豆畑。畝が美しい列をなしています。「大豆栽培を始めたのは私の父で、約24年前のこと。当時はこのあたりの農家も大豆は作っていませんでした。大豆はデリケートで手がかかりますし、大地の栄養をすごく吸ってしまうので、一度育てたらその畑は翌年違う作物を育てて休ませないといけないんです。初めは協力してもらえる人もいなくて、父と母が山奥の小さな畑から栽培を始めました。何年も続けていくうちに、少しずつ地元農家のみなさんと一緒に育てていけるようになって、今では大豆は加美町の特産物の一つです」。農業生産法人でもある今野醸造、今年は大豆だけで12町歩(東京ドーム約3個分!)を栽培しているというから驚きです。

大豆畑のアップ

大豆も米同様、宮城県特別栽培認証。夏はとにかく雑草との戦い。毎日数時間草取りをして、農地を1週間かけて一巡すると、初めのエリアにはもう次の雑草が生えている・・・という具合。加えて今年は長梅雨だったため、毎日のようにポンプやひしゃくで畑にたまった水を抜く作業に追われたそう。

青空の下の大豆畑

この日は久々の晴れ模様。畑に足を踏み入れてみると、土はサラサラとしてやわらか。「近くに鳴瀬川という一級河川がある関係で、この付近は大豆栽培に向いている土質なんですよ」。

鳴瀬川

原料の品質をコントロールするための自社栽培

今野醸造の看板
今野醸造の入り口
米の貯蔵庫

そもそもなぜ原料を自ら栽培するようになったのでしょうか?「味噌は、大豆、米、麹菌、塩というシンプルな素材で成り立っているので、製品のクオリティを高めるためには、原料の品質をコントロールすることが不可欠です。原料を仕入れていたころ、何度も質の悪いものが来て困ったことがあり、だったら自分たちで作るしかない、という決断にいたりました。適した品種を探して研究を積み重ね、安定して生産できるようになるまで、20年近くかかりました」。苦労しながら、愛情をこめて育てあげた米と大豆。どのように味噌に加工されているのか? いよいよ工場に潜入です。

手で仕込む。職人の手でしか、到達できない領域を求めて

今野醸造では、ほとんどの味噌づくりの工程を昔ながらの手作業で行っています。糀の仕込みもその一つ。「機械化するメーカーが多い今も、私たちはすべて職人の手で仕込みます。機械だと米の力が8割までしか発揮されない。職人が熟練の技と経験を生かして手もみすることで、10割の力を引き出せると考えています」。こうしてできあがった糀は、米の表面がムラなく麹菌でコーティングされ、米の中まで麹菌がしっかり入り込んでいるのがわかります。これが大豆の旨みを引き出し、おいしい味噌ができるカギなのだそう。

糀
糀

この糀と、蒸し上げた大豆、塩をすり混ぜて仕込んだ味噌は、発酵蔵の中で眠りにつきます。今野醸造では、白味噌、赤味噌の両方を製造。「色の濃い赤味噌(仙台味噌)は塩分が高いと勘違いされがちですが、塩分濃度に差はなく、大豆への火の入れ方、そして発酵の長さで色と味わいの差が生まれます。白味噌は甘み、赤味噌は旨みが強いのが特徴。関東では今白味噌が主流ですが、江戸時代には伊達政宗公が参勤交代で地元の味噌を持ち込み、“仙台味噌”と呼ばれ江戸でブームになったという逸話も伝わっているんですよ」

白味噌
赤味噌
製造工程
赤味噌の天地返し

白味噌が2〜3カ月なのに対し、赤味噌は3〜12カ月の発酵期間が必要。長い時間の中で、たっぷり旨みを蓄えていきます。上の写真は、「天地返し(切り返し)」と呼ばれる工程。発酵の途中で数回、味噌を混ぜて酸素を送り込み、タンクの中でムラのある発酵具合を均一にします。機械でタンクを上下逆さにする手法もあるそうですが、今野醸造ではこちらも職人の手作業。一日に数トンの味噌を切り返します。「重労働ですが、味噌との会話ですから楽しみですよ。おいしく育ってほしいと気持ちがこもりますし、タンクの隅々まで確かめて調整してあげられるので、仕上がりが変わってきます」。

発酵後さらに熟成。旨みと香りを高め、絶妙なタイミングで蔵出しする「釜神」

工場にある釜神さま
熟成中の「釜神」

こちらが、今回日本橋へやってくる特別な仙台味噌「釜神」。「通常の発酵を終えた後、1〜3カ月熟成させることで、旨みと香りがぐんとアップします。職人が熟成度合いを見極め、求める味になった絶妙なタイミングで蔵出しし、漉して滑らかに仕上げます」。この「釜神」は、料理人から昔ながらの力強い旨みの味噌がほしい、と依頼され開発したもの。その野性味あるきりりとした味わいが完成した時、加美町に伝わる火除けや魔除けの神様であり、迫力ある顔つきが特徴の“釜神”になぞらえて命名したそう。2014年には全国味噌工業協同組合連合会会長賞にも輝き、名だたる料亭やレストランで料理人たちを魅了する、プロお墨付きの一品です。「旨みが強いので、味噌汁にする際も出汁がいらないですよ。とくに根菜との相性は抜群。豚汁もおすすめですね」。

「釜神」の匙あげ
数々の賞状が並ぶ
今野さん

家業を継ぐ前に、東京で10年ほど食品加工会社で働いた経験もある今野さん。東京の子どもたちが、外食チェーンのインスタント味噌汁が好き、と言っているのにショックを受け、本物の味に触れてほしいと、都内の小学校数十校へ原価なみの値段で味噌を提供しているそう。「今の若い人たちは、大量生産で均一化された味に慣れてしまっているのかな、と思います。自然のものだけで作られる食品は、その都度一期一会の味わい。その繊細な“生きた味”を感じて、楽しんでもらえたら嬉しいですね」。

  • (
  • 旨みと香りを極めた仙台味噌
  • )
原料栽培仕込み 蔵出し仙台味噌 釜神

<あぶまた味噌>原料栽培仕込み 蔵出し仙台味噌 釜神

240円+税(100gあたり)

  

SHOP INFO

■日本橋三越本店 本館地下1階/柱番号G-11
[販売期間]2019年9月18日(水)〜10月1日(火)
[販売数量]20㎏限り

FLOOR GUIDE

ONLINE STORE


※価格はすべて税別です。2019年10月1日(火)より消費税率が変更されます。標準税率(10%)と軽減税率(8%)が混在しております。

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