<小布施堂>本店
  • SPECIAL
  • 2019.9.2 UP

連載[老舗今昔 #003]北斎を迎えた旦那文化の旗手、“栗の王国”を築いた<小布施堂>

半径2キロの中にすべての集落が入る、長野県で1番小さな町・小布施町。秋になると、全国から駆け付けた人々が早朝から列をなします。お目当ては<小布施堂>本店で、新栗時期だけに供される栗の点心「朱雀」。純粋にその年の新栗の味を楽しむために作られる一皿を求め、早朝から整理券を求める行列も今やお馴染み。わくわくと期待に弾む顔が並ぶさまは、まるでテーマパークのアトラクションのよう。それはまさに<小布施堂>が唱えてきた“栗の王国”を体現する光景です。日本橋三越本店でも、栗のシーズンはひときわ賑わいを増す栗菓子専門店<小布施堂>。今回はその本拠地・小布施でのヒストリーを辿ってみましょう。

三越デイズ

600年以上の歴史を誇る栗の名産地

小布施の風景

小布施で栗の栽培が始まったのは1367年、丹波の豪族、荻野常倫が小布施に栗の苗木を持ってきたのが始まりと言われています。町の南側を流れる松川が作った水はけの良い扇状地と酸性の土壌、そして北信濃の清涼な気候と、栗がおいしく育つ条件が揃っていた小布施。その味の良さから江戸時代には将軍への献上品となり「小布施栗」は当時から全国に知られる存在でした。

小布施の栗

後に<小布施堂>を設立する市村家は、1755年に酒造業をスタート(現在も続く「桝一市村酒造場」の前身)。江戸時代には商社、塩問屋、大名貸、茶問屋、菜種油、薬屋など多岐にわたる商いを行っていた小布施の大商人でした。江戸後期に千曲川を利用した舟輸送が始まり、北信濃の商業交易の中心として栄えた小布施には、豪農や豪商が生まれ、その富を背景に地域の経済や文化の振興を担う“旦那文化”が生まれました。都から数々の文人墨客を招き小布施文化が花開いたのも、この“旦那文化”があればこそ。中でも有名なのは、市村家の12代当主・高井鴻山(市村三九郎)と天才絵師・葛飾北斎のエピソードです。

葛飾北斎、晩年の創作を支えた小布施の旦那さま

北斎の作品
高井鴻山

当時83歳で初めて小布施を訪れた北斎。京都や江戸への遊学経験を持つ教養人であった高井鴻山は、北斎のためにアトリエを新築し歓待しました。鴻山は北斎を「先生」、北斎は鴻山を「旦那さま」を呼びあっていたそう。天才ゆえに破天荒な人生を送り苦労も絶えなかった北斎ですが、芸術的、経済的理解者を得て、この地で晩年の傑作を残します。3年半の間に計4回も小布施の地で過ごし岩松院や祭屋台の天井絵を描きました。後に16代目社長であり小布施町の町長も務めた市村郁夫氏が1976年に作品を収蔵した北斎館を建造。また、<小布施堂>本店の栗菓子工場は北斎の作品「傘風子」にちなんで「傘風舎」と名付けられるなど、<小布施堂>と北斎には深い繋がりがあるのです。

北斎館エントランス
北斎館展示風景
傘風舎

栗の加工業開始当初から続く、日本橋三越本店での販売

栗の加工業開始当時の写真

小布施の旦那文化の旗手であった市村家が、栗の加工業を始めたのは1897年から1906年ごろ。缶詰技術と工場制の生産方式で栗羊羹や栗鹿ノ子の製造をはじめ、1923年には現在の<小布施堂>の前身となる<小布施果実加工株式会社>を設立しました(1951年より<小布施堂>)。その当初から続く最も歴史のある販売拠点が日本橋三越本店です。当時栗のお菓子は高級品。昭和7年当時、大卒初任給が約10円のところ栗羊羹(大)が50銭だったというから貴重さのほどがわかります。戦時中、終戦後に甘いものが貴重だった時代も、保存性がよくおいしい小布施の栗菓子は東京でありがたがられたそう。今でも日本橋三越本店のお店には、親子3代、4代にわたるファンがいるのだとか。

栗鹿ノ子

“産地”から“王国”へ。栗の文化と郷土の魅力を発信する

着々と栗菓子ブランドとして事業を拡大していった<小布施堂>は、栗の郷・小布施を盛り上げようと、現在にいたるまで地域振興の旗振り役を担っています。1982年から始まった「小布施町並み修景事業」に伴い本店や工場建屋を新築。歴史を感じさせながらも現代の生活が息づく、味わい深い風景が広がるエリアを形成しました。「北斎館」もその一角に位置します。また栗料理を楽しめるレストランやカフェ、さらに地元料理を味わえる飲食店や商家の土蔵を解体移築した宿泊施設まで展開し、<小布施堂>界隈は町と一体になったテーマパークのよう。人口約1万1千人(2019年7月1日現在)の小布施町には年間約120万人もの観光客が訪れるというから驚きです。

<小布施堂>本店界隈の風景

約20年前から、<小布施堂>が提唱しているのが「“産地”から“王国”へ」。 地元の生産物が地元で消費され、さらには消費情報も溢れているという状況こそを“王国”と呼ぼうという考えです。「栗の点心 朱雀」も、この地を訪れこの地で食べる人を呼び込む、栗の王国の象徴的な名物と言えるでしょう。

“栗の王国”へ思いを馳せていただく、栗スイーツ

朱雀モンブラン

「栗の点心 朱雀」を、なかなか小布施を訪れる時間のない東京の人々にも味わえるようにと開発されたのが「朱雀モンブラン」。栗あんをそのまま絞り出し、和風モンブランとしてケーキに仕立て、テイクアウトが可能な商品に仕上げました。三越では2017年8月銀座三越に初めて登場。以来栗好き、スイーツ好きの方々が心待ちにする、秋の風物詩になっています。いよいよ到来した新栗の季節。小布施の地に広がる豊かな文化を知ると、おいしい栗菓子がなんだかさらに味わい深くなりそう。“栗の王国”から届く今年の栗スイーツをぜひお楽しみください。

三越デイズ
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<小布施堂>朱雀モンブラン

栗の風味をそのまま味わえる、和のモンブラン

渋皮栗と2種類のクリーム、栗あん、スポンジをタルトにのせ、栗あんをかぶせた和風モンブラン。まるで栗そのものを食べているかのような風味に驚くはず。

  • 日本橋本店

<小布施堂>朱雀モンブラン

1,600円+税(1個)

  

SHOP INFO

■日本橋三越本店 本館地下1階 / フードコレクション

[販売期間]2019年9月4日(水)~11日(水)

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<小布施堂>栗むし 新栗

小布施の秋をほおばる、新栗の栗むし

新栗時期だけのお楽しみ、通年商品の「栗むし」を今年の新栗で製造いたしました。蒸しあげてもちもちの栗あん生地と、渋皮栗の食感の違いが楽しい、栗好きにはたまらない一品。

  • 日本橋本店

<小布施堂>栗むし 新栗

950円+税(1個)

  

SHOP INFO

■日本橋三越本店 本館地下1階 / 柱番号A-3

[販売期間]2019年9月15日(日)~11月3日(日・祝)

三越デイズ

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ONLINE STORE

※価格はすべて税別です。2019年10月1日(火)より消費税率が変更されます。標準税率(10%)と軽減税率(8%)が混在しております。

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