日本画家 泉東臣氏×日本橋三越メンズ “美”と“技”の融合
2019年秋冬、日本橋三越メンズはオンリーMIキャンペーンにおいて、日本画家の泉東臣氏とコラボレーションします。第1回は、今回コラボレーションする日本画家 泉東臣氏のインタビューをお届けします。
2019年8月某日。日本橋三越本店の会議室で日本画家・泉東臣氏に日本画に対する思いや、今回のメンズアイテムとのコラボレーションについてお話を伺いました。
泉 東臣(いずみ はるおみ)
1979年、千葉県生まれ。2003年東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業。2005年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻描画装飾研究室修了。2010年東京藝術大学非常勤講師(~2012年)。現在、日本美術家連盟会員。百貨店を中心に個展・グループ展多数。
作品収蔵:郷さくら美術館、千葉銀行、京葉銀行、ヒューリック株式会社
――泉先生が絵を描き始めたのはいつ頃からですか。
物心ついた頃には既に描いていました。
最初に書き始めたのは漫画です。7つ上の兄が漫画家だったので、それを見ていて影響を受けたのだと思います。個人的には、漫画とアートは表現方法が異なるだけであって、明確に違いはないと思っています。もちろんマーケットは違いますけどね。今でもイラストを息抜きで書いたりしていますし、2、3年に一度くらいはイラストの展示もやりますよ。
――日本画を専攻されたきっかけを教えてください。
高校3年生の春には専攻を決めなければならなくて…。専攻によって試験課題が様々なのですが、日本画は鉛筆で石膏デッサン、絵具で静物着彩と、シンプルに絵を描くことが求められていて、それが自分には合っていたということでしょうか。
――日本画のどのようなところがお好きですか。
白が一番分かりやすいのですが、日本画の画材の発色が一番静かで強い色を出すことができる点が私は好きです。アクリル絵の具の方がバチっと強い印象になりますが、その分、表面に膜ができて、テカリがどうしても出てしまう。発色は素晴らしい分、日本画を描くのは大変ですけどね。
――絵を描く(作品を制作する)にあたって、どのようなことを大切にされていますか。
絵を描くときに最も大切にしていることは、「感覚を洗練させる」ということです。例えば、私の師匠である中島千波先生は、植物を描くときに蕾から、咲き誇っているところ、枯れているところまでを描きます。それは本質を見つめているから。逆に私はきれいなところしか描かない。「美の絶対化」と私は良く言うのですが、出来る限りバタ臭さを消して成形し、観念的にしていく。リアルに描くことはもちろん必要ではあるのですが、それほど重要視はしていません。私は宝塚が好きなのですが、その感覚に似ているのかも知れません。
――泉先生の作品を購入される方はどのような方が多いですか。
僕は深いところをじっと見るよりもパッと見た時の印象に意識を割いて、作品を制作しています。作品を購入される方も、パッと見たときにキレイだなと思って購入される方がほとんどです。
――今回のメンズアイテムとのコラボレーションについて、最初に話があった時はどのように感じられましたか。
正直、僕でいいの?と思いました。私の作品の色はシンプルに表現しやすいので、そういうところで僕に話がきたのかなとも。ただ、やるからには自分の中で誇れるように取り組もうと思いました。数多く作家さんがいた中でお話があったのは正直に嬉しかったです。
――製作していく過程の中で、心境の変化はありましたでしょうか。
どこかで創作活動がルーティンワーク化していると感じることもあったのですが、今回のコラボレーションを通じて、もう一度創作活動に向き合えたことは良かったです。
――今回の作品展に向けて以前の作品と変わったところはありますか。
波のバランスが変わりましたね。以前はただ単に荒々しかったのですが、今回の作品は静かに強い波を描くことができたと自負しています。
――では今回の作品展では先生の描く「波」に注目ですね。
そうですね。
――コラボレーションで大変だったことはどんなところですか。
一つの企画でこれだけ多くの方が関わっているということと、会議が多いということに驚きました。あと、最初の名刺交換攻撃にも(笑)。私は会社員になったことはないので、会社員の方はみんなすごいなと思いました。少しの期間、会社員らしい経験ができたことは貴重でしたね。
――出来上がった作品をご覧になった感想はいかがですか。
店頭に並んでいないので、まだ感慨はそれほどないのですが、店頭に並んだ時に感慨が生まれてくるのかなと思っています。作品の時もそうなのですが、完成した時は、ただただ「締め切り終わった!」という達成感のみで、額装され、店頭に並んで初めて感慨が生まれるので、それを感じたいです。
――今回メンズアイテムとのコラボレーションでモチーフとなった作品「蒼刻」と「悠刻」への思いを聞かせてください。
「海」と「森」は、生命を生み出し、育むという意味では同じ場所なのに一緒には存在しない。その「同じなのに相反するもの」を画面で合わせた時に命の光が湧き出ているというテーマの作品です。「命」がテーマと言うと、躍動的に捉える人がいるのですが、僕はそうは思っていません。ただただ静かに淡々と心臓が動いている。僕にとっての命は「静」だけど、強いものです。青にいきついたのも、色的に「静かだけど強い」という色面がぴったりだったから。「蒼刻」の青に対して、対になる感覚が「悠刻」の赤でした。
今回のコラボレーション企画でもモチーフとなった「蒼刻」(左)と「悠刻」(右)
――昼間の「青」と、夕方の「赤」ということではないのですね。
時間帯や、季節感は全く捉えていません。どこでもない感覚で「色の時」という感覚で描いています。「青」と「赤」は僕にとって特別な色です。
――泉先生にとって特別な色である「青」と「赤」がコラボレーションアイテムでどう表現されるのか楽しみですね。
そうですね。
――本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
次回は「コラボレーションアイテムが出来るまで」と題し、泉先生と日本橋三越メンズのバイヤー陣との打ち合わせの様子をお伝えしますのでお楽しみに!
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